遠い場所へ届こうとする言葉 ??中村剛彦『壜の中の炎』について/岡部淳太郎
 
くもりが体中を沸騰させ
早く、早く
この五本の指を斬ってください
さもないと
罪の子供たちが春が来たと間違えて
今にも飛び出してきそう

(「秘密」全行)}

 五本の指に罪を負わせる書き出しはまぎれもなくユーモラスだが、行を追って読んでゆくとただそれだけではないことがわかってくる。自らの心身から滲み出すように現れる罪、それに対して詩人はとまどいながらも、じっと身を低く保っている。罪を滲み出させないためにも、自らを笑うユーモアが必要だったのだろうか。だが、そのユーモアの後ろには、詩人の決死の思いが隠れている。だからこそ「秘密」という表題なのだ。この「秘密」を知られてはならない。知
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