遠い場所へ届こうとする言葉 ??中村剛彦『壜の中の炎』について/岡部淳太郎
 
(「刻印」全行)}

 たった十二行の詩の中に、これだけ豊かな抒情を結実させる詩人の力に驚嘆する。この「老夫婦」はまるで預言者のようだ。彼等が星を数えている間は、誰も星の存在に気づかない。だが、時が過ぎ、気が遠くなるような長い時が過ぎて、人々はやっと星を見つけるのである。「老夫婦」はきっと、遠い場所から遠い声を伝えるためにやって来たのだろう。人に気づかれることのない真実を言葉に託して伝えるのが詩人の役割のひとつであるのなら、この詩人には充分その資格が備わっているように思える。
 集中、いくつかのユーモラスな響きを湛えた詩篇があるが、それをただの可笑しな詩で終らせていないところは、この詩人の生
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