嘘とパラドクス/アシタバ
恣意的な体系=主観によって恣意性が隠される」場合であることに気付くでしょう。これに似た話者というと思い当たるのが、ある朝「ベッドの中で不安な夢から覚めてみると、自分が一匹の巨大な毒虫に変じているのを発見した」あの話者でしょう。ただしこちらの方は、グレゴール・ザムザという立派な?名前をもっているのですが。
ザムザが虫であるに係わらず、その近親者たちとかなり緊密に結ばれてい、あろうことか妹との間には一種の恋愛的な親密さまで醸成していくのに対して、猫のほうは、猫であるだけに登場人物たちとは人間/動物の分際によって隔てられています。だからこの小説には<一人称小説>でありながら、<客観
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