「箱の中の猫」/篠有里
ている猫ですか?
暗い廊下の先には暑い部屋があって、
仏壇の脇には置物のような祖母がいる。
猫も何もかも嫌いなその祖母が、かつていたその部屋。
今は湿気が黴の成長を促し、
見知らぬ黒い模様が言葉にできない不安を漂わせる。
やはりその模様は、黒い猫だ。
そうか、猫はいつもそこにあるモノなのだ。
父方の祖母はあの猫と同じに今は箱の中にいるが、
私はついぞ祖母がいるという箱の中に行った事がない。
行く気もないから、
本当に祖母が生きているのか死んでいるのかどうかを判断する事はできない。
母は今日も祖母の着替えを持って、
山の中の箱の、その中へと出かけていく。
そうして
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