うたとわたし/木立 悟
 




何かの罠のような路地や家々の間を抜け
無造作に置かれたきらびやかな板をぬい
話しかけようとするものは話しかけてくるだろう
水の下の水 道の下の道
空白を埋めることでよしとする輩などには
ひとかけらも満たされることのないたましいを
彼らはつねにはためかせているのだから


水はなく 水はなく
自らの熱に焼かれぬために
ただ自らの叫びを呑むばかりだった
世界をふたつに分けようとしたものたちの
無数の墓が立ち並び
風にも雨にも無言のまま
未知の言語
未来の言語にさえなれぬまま
日々の生とは無縁の場所に
美しく押し込められているのだった


虫の内
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