野田秀樹『贋作 罪と罰』を観る/田代深子
『贋作』が、やけにスマートだというのは同感だ。あの長い小説を2時間ばかりに整理し再構築するのだから当然だが、原作にある些末なエピソード群がいかに全体を意味深くしているか、逆説的に証明してくれたようでもある。
『贋作』においては、主人公の殺人と革命(=明治維新)をあまりにもきれいに重ねすぎ、ラスコーリニコフの理論に作品全体が陥ってしまいかねないほどだ。すなわち、個人の殺人が社会変革の象徴に、まさになってしまっているのが野田の『贋作』だと言ってしまうことさえできる。原作でラスコーリニコフが犯すのは、まったく無意味な殺人としてしかありえないが、『贋作』のほうでは机上の理念を踏みこえて殺人=行動を為し
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