やまびとの詩?散文詩/前田ふむふむ
 
断崖に背を向けて洞穴の家を造った者は、閉塞した断崖の麓の生活の歴史を書き綴っていった。穏やかな日々が続き、いつしか、誰もが過去のことを忘れていった。想像以上に収穫のあった年に、若いやまびとの一人が、「断崖は無い」といった。それを知った多くのやまびとは、家の中に閉じこもり、壁に掛かっている割れた鏡にむかって、怯えながら、亡霊のような眼で自分の姿を眺める日々が続いた。
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ある日、猿の仮面を掛けた黒装束の部族がやって来て、断崖を登り始めた、彼らは楽々と登り切ると、断崖の上から,雄叫びを上げて、麓にいる者を臆病者と嘲った。それから、死者を埋葬する細々しい塔と、子供の猿を生贄にして捧げる
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