「幽霊」についての私的覚書/岡部淳太郎
の存在を全否定していいわけがない。人にはそれぞれにその人固有の事情や物語があるのであり、そうしたそれぞれの取替えの利かないものを、社会の最大公約数の中の単純な二元論の価値観に収束してしまってはいけない。こうした思いがあるからこそ、僕は「幽霊」を召喚し、それに「淋しさ」という衣をまとわせるのだ。
自分でも困った奴だと思うのだが、僕は人一倍頑固な性格であり、そのため、前記のような個人を軸とした考えを変えるつもりはない。これから先、僕はまたあの連作を書いていた頃と同じように、多くの幽霊たちを詩の中によび出すことになるのだろうか。それとも、「幽霊」という象徴を捨てて、より私的な詩文の方に向かうのだろう
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