「静かの海」綺譚(11〜20)/角田寿星
思わず急ぎ足で
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「灰色の菫」には移住して以来の友が
コク・テール作りをしていて扉を開けたぼくを
笑顔で迎え入れた 椅子のないカウンター
にはもう一人の友が立っていて 彼は
ぼくが来るのを予知していたのだと言い張った
椅子のないカウンターの片隅には
一脚のテーブルと椅子があったが
その椅子にぼくらが座ることは一度もなかった
いつもカウンターに肘をついて
コク・テールと話を楽しんだ
移住する前
のことは互いに何も知らない
地球に置いてきたもの
のことは ぼくらはもう話さない
ぼくらが話すのは「静かの海」の思い出話
昨日の探検談 すれちがっ
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