恋愛詩の可能性/岡部淳太郎
 

ひかりが座席を必死になってうばいあい
くらやみが押しあいながら先を急いで地獄へ落ちるのを
ぼくとあなたは
都会のまんなかで
どこかで汚れた猫がにゃあと鳴くのを聞きながら
じっと
ながめていたっけ

あなたとぼくは
首の骨を電柱にひっかけて
口をとがらせて歌った
だれの精子があたたかくってもいい気持なの
だれの子宮がまあるくてのめっこいの
銀色の風が
あなたのどす黒い頬骨のはじっこにさーと吹いて
おたまじゃくしがキーキー鳴いて
おたまじゃくしがキーキー鳴いて
街路をとことこ歩いている人たちが
ぽちゃん、ぽちゃんと
水たまりに身投げした
赤いガーターをぼくは
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