恋愛詩の可能性/岡部淳太郎
 
不器用にこの世に生きている
それでも僕はまるでちがってしまったのだ
ああ
薄笑いやニヤニヤ笑い
口をゆがめた笑いや馬鹿笑いのなかで
僕はじっと眼をつぶる
すると
僕の中を明日の方へとぶ
白い美しい蝶がいるのだ

(黒田三郎「僕はまるでちがって」全行)}

 戦後日本の恋愛詩集の名作として名高い『ひとりの女に』に収められた詩である。非常にわかりやすく、この詩のどこに技術があるのだと言われそうだが、実はあるのだ。それは、話者である「僕」の恋愛対象の女性を最終行の直前までまったく出さないというところにある。最終行にある「白い美しい蝶」というのがその女性なのだが、取りようによっては
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