仄かな言葉/白石昇
ない、とわたしはおかあさんに言った。しだいに他人に手を引かれることが煩わしくなってきていた。
三日後、どうしてもひとりで行く、というわたしの意見を何とか聞き入れたおかあさんが、しばらくの間はこっそりとわたしの後をついてくることは容易に想像できた。実際、わたしが家を出ると、背後から家のドアを開閉する微かな風を感じた。
わたしはひとりで家の前に立つとまず、右手に持ったステッキを地面の上で派手に振り回した。
ずっと昔に先生から教わった事をあらためて繰り返してみる。当然、地面にステッキが当たる音は聞こえなかった。先生、っていうのは一体何の先生だったのだろう、とわたしは堅いアスファル
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