仄かな言葉/白石昇
 
灯りがともったような、そんな感じだった。わたしはもう立っていたくはなかった。身体中の力を抜いて、引力に身を委ねて、澄んだ空気に身を任せたかった。
 かれはわたしと胸を合わせたまま、わたしの背中に石鹸を塗り始める。わたしはかれの胸に口唇をつけてみた。かれの胸は、石鹸の味がした。

 わたしは、すごく、この、今わたしが腕を巻き付けているかれという生き物が、愛おしかった。

 かれは、わたしの身体を丁寧にタオルで拭ってくれた。拭い終えて髪にかれの温かい息を感じたその瞬間、わたしはかれに抱きかかえられた。足が地面に着いていない状態が怖かったが、かれに委ねられたわたしの身体は、自然に脱力した。かれ
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