仄かな言葉/白石昇
 
、全くわからなかったが、少しも怖いとは思えなかった。

 空調が整った、澄んだ空気に充たされたどこかの部屋で、わたしは公園からずっと握っていたかれの手を初めて離した。手を離すとかれはゆっくりと、両手で撫でるようにわたしの顔を支え、わたしの顔中に口唇を押し当て始めた。
 かれの、いつもわたしに優しく触れる指よりも暖かい、口唇の感触が心地よかった。かれの手が、わたしの服の上でもどかしげに動き回っていた。
 わたしはその手をゆっくりと払って、自分で服を脱ぎはじめる。足を包んだ長い服の紐をほどいて、上着を脱ぎ、ブラジャーを外す。かれの左手を握り、体重を預け、バランスを取りながら、脚を片方ずつ上げて
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