仄かな言葉/白石昇
 
と、自分が感じている世界の間を行ったり来たりする方が疲れてしまうのはあたりまえの事だった。

 わたしはそのことに気づいてはいたけれど、気づかないふりをしていたのかもしれなかった。
 わたしは方法を探した。わたしの感じている世界と、かれの感じている世界を無理なく融合させる方法を。
 けれどそんな方法は見つからなかった。諦めるより他に無かった。

 わたしは自分の頬にひんやりと涼しい風が当たっているのを感じた。かれがわたしの前から去ることによって、あの転校してしまった子と同じように、いずれわたしの中からも消えてしまうのが悲しかった。もっと、かれについての手がかりを自分の中に残しておきたい
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