仄かな言葉/白石昇
 
共有しようとする事が、どんなに困難な事なのかを、昨日、かれに、説明したのだと、わたしは思った。
 わたしの聴覚が機能しなくなってからの、おかあさんの疲れ方はひどいものだった。
 それはおかあさんの手の動きや、匂い、時々吐き出す暖かい吐息などから、明らかに感じ取れた。

 わたしがクサることなく前向きに状況を受け入れ、可能性を広げようとすればするほど、近くにいる人間はそれを補助しようとして、疲れてゆく。

 かれも、少しずつおかあさんと同じようなものを感じ始めていたのかもしれなかった。

 自分が感じる事ができる世界だけで生きていくことになったわたしよりも、わたしが感じている世界と、
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