仄かな言葉/白石昇
不思議なくらいいつも通りのお昼だった。公園は光に充たされていて、風は優しかった。
お弁当を食べ終えてカバンの中にしまうとかれはわたしの手を握り、掌に、
《もうあえない》
と書いた。
わたしはそんなに驚くほどショックではなかった。メモ用紙を出してかれに
《なぜ?》
とは書いたりはしなかった。何となく、昨日からイヤな感じがずっとしていたからだった。
わたしはゆっくりと手を動かし、かれの顔を触ってみる。
瞼、鼻、口唇、耳。
いつかは来るだろう、と思っていた日が来てしまったのだ、とわたしは思った。
おそらくおかあさんは、わたしという人間が感じている世界を共有
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