仄かな言葉/白石昇
らせ、
《もうかえるよ》
と書いた。
わたしはおかあさんにわからないような角度にかれの掌を向け、
《なぜ》
と書いた。それについての解答はなく、かれはただ、
《コーヒーおいしかった》
とだけわたしの掌に書く。わたしは素早くメモ用紙を取り、
《駅まで送ってくる》
と書いておかあさんに渡し、立ち上がった。
駅までの道、わたしは来る時とは逆に、かれの後ろで手を曳かれて歩いた。かれは時折、わたしの手を強く握ったり、緩めたりした。ひっきりなしにショート・ホープの煙が流れてきた。
駅に着くとかれはわたしの掌に、
《またあした》
と書いてわたしの手を離した。わたしは
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