仄かな言葉/白石昇
感じがして、メモ用紙に向かいかけた手をカップに戻した。
わたしはおかあさんとかれの邪魔をしないように、ゆっくり時間をかけてコーヒーを飲み続けた。飲んでいるうちになんだか腹が立ってきた。
いつもこうだ、とわたしは思う。音声を自由に操れる人達が真剣に会話をし始めると、決まってわたしはひとりになる。
わたしが使う事ができない機能を使ってコミュニケーションを取ることによって、かれらはわたしの手の届かないどこかに行ってしまうのだ。
コーヒーを飲み終えてしばらくそんな事をあれこれと考えていると、遠くにあったかれの匂いが一段と濃くなった。かれはわたしの手を取ると掌の上で指を踊らせ
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