仄かな言葉/白石昇
さんはやがてわたしの左手を取ると、掌に、
《こんど家につれてきなさい》
とだけ書いた。
わたしはかれの匂いを覚えた。ショート・ホープの煙の中にとけ込んでいるように感じる土に似た汗の匂い、それがかれの匂いだった。一緒にお弁当を食べるとき、かれの肌は少し汗ばんでいて、わたしはそのさらりとした汗を纏った腕に触れたり、匂いを感じたりするだけで、度々、自分が食事中だと言うことを忘れた。
わたしは紙に、
《なぜ?》
と書く。かれは
《?》
マークをわたしの掌に書いた。
《毎日》
《なぜ?》
わたしは再び言葉を繋ぐ。
《すきだから》
かれはわたしの掌に、そう書
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