仄かな言葉/白石昇
 
しかしたら、今日のような状況を想定して、自分がこのカードを作ったのかもしれない、とわたしは思った。
 その人はなぜか二回、お弁当の包みの上に乗せていたわたしの手を叩いた。男の手だと思った。わたしはポシェットからメモ用紙を出して、
《ここで、何してるの?》
 と書いた。自分でも、何でそんなことを訊くのか、わからなかった。わたしは自分の左の掌をかれの方に向けた。

《ひ》・《な》・《た》・《ぼ》・《っ》・《こ》

 わたしの手にはたどたどしくひらがなが形作られていった。その文字を感じながらわたしの身体の中から緊張感がさらさらと抜け落ちてゆく。煙草の匂いがした。ショート・ホープ。お父さんが
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