仄かな言葉/白石昇
どうか不安だった。わたしはそのまま再びお弁当を食べはじめた。その人の気配はまだ背後に残ったままだった。
緊張して、なんとなく味がわからなくなった。
何とか食べ終えるとわたしは、ポシェットを探り、背後に存在する気配の発信源に向かって、
《わたしは目と耳が不自由です。》
とだけ書かれたカードを出した。
あまりにも抽象的で自分の意思が存在しない言葉だと思った。これまで一度も使ったことがないカードだったので、まだ、指が切れそうな程堅く、点字の凹凸がはっきりしていてわかりやすかった。
一体、どのような状況を想定して自分がこのカードを作ったのか、思い出せない程だったが、もしか
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