仄かな言葉/白石昇
 
を感じていた。そういった事自体ごくたまにあることなので、わたしは別段、気にすることもなくお弁当を食べ続けた。
 不意にわたしは、後頭部から耳にかけて穏やかな空気の流れを感じ取る。私の髪がかすかに震えた。
 その、わたしの後ろに立ち止まっていた人が何か言ったのだと思った。わたしは空気が流れてきた方向に振り返り、箸を持った右手で自分の耳を指さして、
《わたしは、耳が、聞こえないんです。》
 と言う意思を表現した。通じたかどうかは、わからなかった。まだ口の中にキムチとご飯が入り混じっていて、声を出すことができなかった。
 それよりもわたしは最近ずっと、声を出していなかったので、声を出せるかどう
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