仄かな言葉/白石昇
度と匂いを消した。
わたしは何通か彼女に手紙を書いたが、彼女からの返事はなかった。当然と言えば当然だった。考えて見ればわたしからの手紙は、いつも律儀にわたしにいろいろなことを伝えてくれた彼女を困らせるだけに過ぎなかった。
彼女がたとえわたしに手で書いた文字を送ったり、音声によるメッセージをテープに吹き込んでくれたりしたとしても、わたしにはそれらの媒体を感じる機能がなかった。彼女はもちろん点字などできなかった。
これからはわたしの身の回りにいて、わたしに触れてくれる人や、点字という手段を使いこなす人としか、わたしはコミュニケーションを取ることができないのだ。
わたしはその事実
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