仄かな言葉/白石昇
 

 今まであたりまえにあったものがなくなると、残されたものの機能が向上する、と言うことをあらためて身を持って体感する事ができた。学校の先生はとりあえずわたしに手話を教えた。
 わたしはわたしが手話による表現を身につけると言う事が、それほど重要な事だとは思えなかったが、教室で、わたしの身のまわりにいる他の生徒達は、わたしの動きでしか、わたしの意思を汲み取る方法はなかった。他の生徒に自分の意志を示すために、手話はどうしても覚えなければならない技術だった。

 先生は事あるごとにわたしの掌に言葉を書いた。そしてわたしが背後に先生の匂いと風を感じた途端、先生はわたしの腕を掴んで言葉を形作った。それ
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