仄かな言葉/白石昇
 
それの繰り返しだった。

 先生や他の生徒達は、わたしが手で何かを表現すると、優しくわたしの身体や手を叩いて了解の合図をしてくれた。やがてわたしは紙に文字を書いて相手に何かを伝える方法よりも、わたしの意思が目の前で風になる、手での表現が好きになった。

 ひとりで通いだしてから四日目の朝、いつも背後に感じていたおかあさんの匂いはなくなった。おかあさんがついてこなくなるとわたしは、学校までの道に存在するいろいろなものを、新しく感じる事ができるようになった。
 いままではおかあさんの匂いが背後に存在することによって、集中力が分散していたのだろう、とわたしは思った。わたしは新しく得たいくつかの
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