仄かな言葉/白石昇
店の人かおじさんが作ってくれているのだろう。
おばさんは多分、わたしのあとから店に入って来たおかあさんと話をしているのだ。
わたしのあとにすぐ誰かが入って来たのは、店の中の空気が、外からの空気と混じり合って微妙に変わった事によってわかった。
それはもしかしたら、おかあさんじゃない別の人かもしれなかった。でも、しばらく座っていると、わたしは店内を流れる焼肉屋特有の濃い匂いに充たされた中に、おかあさんの匂いのかけらを探り当てる事ができた。その匂いは間違いなくおかあさんだった。
わたしの嗅覚は、ここしばらくの間にかなり強くなってきているらしかった。
お弁当が運ばれてきて、
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)