仄かな言葉/白石昇
 
店の人かおじさんが作ってくれているのだろう。
 おばさんは多分、わたしのあとから店に入って来たおかあさんと話をしているのだ。
 わたしのあとにすぐ誰かが入って来たのは、店の中の空気が、外からの空気と混じり合って微妙に変わった事によってわかった。

 それはもしかしたら、おかあさんじゃない別の人かもしれなかった。でも、しばらく座っていると、わたしは店内を流れる焼肉屋特有の濃い匂いに充たされた中に、おかあさんの匂いのかけらを探り当てる事ができた。その匂いは間違いなくおかあさんだった。

 わたしの嗅覚は、ここしばらくの間にかなり強くなってきているらしかった。

 お弁当が運ばれてきて、
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