仄かな言葉/白石昇
で店内の一番奥の席に座らされた。そこはわたしが一番好きな席で、キムチ樽から一番近い席だった。わたしはこの店の、おばさんが漬けるキムチが好きだった。
キムチだけあれば他に何も要らず、それだけでご飯が食べられるほどに好きだった。
ひとりで学校に通う際に、おばさんの焼肉屋をルートに入れたのは、いったん覚えたルートを変えると混乱する、と思ったのもあるが、何よりもわたしがここで、おばさんが作ってくれるお弁当を持って学校に行きたかったからだった。
ふと、感じ慣れたおばさんの気配が動いた。おばさんは店の入口あたりに行ってしばらく動かなくなってしまったようだった。わたしのお弁当はおそらく、店の
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