仄かな言葉/白石昇
 
ばらく歩き、商店街に入ると、親戚のおばさんの店を探り当てるのは比較的簡単だった。
 店の前で四回、ガラスのドアにステッキを当てる。しばらくして大蒜の濃い匂いと共に、仕込み途中のスープやら肉やら、焼肉屋独特の匂いがわたしに覆い被さってきた。
 覚えのある手の感触が、わたしのステッキを持った手を包み込んだ。わたしは、恥ずかしかったがおばさんに向かって、
「おはようございます」
 と言った筈だった。喉と口の中に広がる空気の震えと微かな温度が今、自分が音声を発しているのだ、と言うことを感じさせた。
 おばさんはわたしの手を曳いて、わたしの右肩を軽く叩いた。おばさんに導かれてわたしはまだ開店前で店
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