仄かな言葉/白石昇
感じはじめていた。
あまりにも幼かったのでもうほとんど記憶にはないが、白内障で光を失ったときのわたしは、いまよりももっと、手に負えないほど混乱した、とおかあさんはまだわたしが空気の細かい振動を鼓膜で関知していたほんの少し前まで言っていたし、聴こえなくなってからはわたしの掌に書いた。
わたしはおかあさんがかなり落胆している様子なのを感じた。おそらくおかあさんは泣いているはずだった。もし耳が聴こえていたなら、おかあさんが泣いている声まではっきりと聴こえるだろうな、と思ったが、よくよく考えて見ればわたしの耳が聴こえなくならなければおかあさんが泣いたりする事もないのだ。
おかあさんに連
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