仄かな言葉/白石昇
 
大きさに対しての恥ずかしい気持ちや、その人の親切に対して感謝する気持ちよりも、自分が数えた通りに鶴橋の駅に着いたという満足感でいっぱいに充たされていた。

 鶴橋駅のホームは、野田阪神駅よりも、ホームの人口密度が高いようだった。
 わたしはホームに足を置いた途端にはっきりと強い大蒜の匂いを感じた。ステッキを弾ませる度に、わたしの周りにいる人々の気配が四散する。空気の流れが変わり、気配が離れていくというよりも、大蒜の匂いの濃度が変化する様が、わたしにその様子を把握させた。

 人々ははっきりとわたしを避けていた。

 まだ音声を感知できた頃も、わたしは自分の周りにいる、わたしを避ける人
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