仄かな言葉/白石昇
かった。男の人に違いないと思った。わたしは電車の振動が変化する間隔をチェックして、鶴橋までの停車回数を数えてはいたけれど、一応その男の人にカードを出して訊いてみた。
《鶴橋駅に着いたら教えて下さい。》
と書いてあるカードだった。
手首に二回、優しい感触が帰ってくる。
「よろしく、おねがいします。」
とわたしは言ったはずだった。自分の出した声の大きさが全くわからなかった。その事が恥ずかしかった。
「どうも有り難うございました。」
電車を降りるときに、わたしは再び言った。その人はまた二回、わたしの肩を叩き、わたしの手を取ってドアまで導いてくれた。
わたしは、自分の声の大き
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