仄かな言葉/白石昇
 
ードを他人に見せずに済むかもしれない、と思った。

 昨日あれほどおかあさんと二人で時間をかけて作ったカードが徒労に終わるかもしれないと思うとなんとなく淋しかった。わたしがタイプで点字を打ち、おかあさんがその裏に文字を書く。おかあさんには悪かったが、それはかなり時間のかかる作業だった。

 ふと、背後におかあさんの気配を濃く感じて、わたしは声を出しそうになるが、その気配を無視したままわたしは電車に乗り込んだ。
 電車の中は涼しく、停車時と運行時の振動の違いを感じ分けるのに集中できた。わたしは手を曳いて電車内まで導いてくれた人にすすめられるがままドアに一番近い席に座った。その人の手は堅かっ
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