仄かな言葉/白石昇
いてこれまでなにひとつ教えてはくれなかった。学校で教えるものだと思っていたのかもしれなかった。
知らなかったから、わたしはひどく混乱した。おそらくその混乱のせいで、わたしの耳は音声を感知しなくなったのだと思う。おかあさんは申し訳なく思ったのか、わたしの掌に指を踊らせ何度も謝罪するように文字を書き、わたしの身体に起こった変化について説明したが、わたしはおかあさんが音声でわたしに説明できない事を、ひどく煩わしく感じている様子が伝わってきて、申し訳ないことになったなあ、と思った。わたしはおかあさんのその煩わしさを掌で感じながら、自分の皮膚が周りの空気に対して鋭敏になっていくのをゆっくりと少しずつ感じ
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