ヴィーナス/たたたろろろろ
 
いたが最後の話の途中で怒り出した。男はそのことには触れずに彼女の髪を優しく撫でてこう言った。
 
「もう旅には出ないことにしたから。これからずっと一緒にいれるじゃねえか。困ることなんか一つもないだろ、な」

 お土産に買ってきた腕時計は彼女に気付かれないように壊して捨ててやった。

 

 両腕を失った彼女。涙はもう止まったが、ここ数日無力を嘆いてばかりいた。

新しいテレビやオーディオ、冷蔵庫を買いに行ったときにも何も出来ずに隣にいただけだった。家にいても料理も勿論出来ないし、紅茶も入れることも出来ないし、テレビのチャンネルさえ変えることが出来なかった。男は終始忙しそうに彼
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