ヴィーナス/たたたろろろろ
に彼女の身辺の世話をした。文句こそ言わなかったが明らかに男は疲れていた。男は平静を装ってずっと微笑んでいた。そんな男を見て彼女は言った。
「私といるとあなたは疲れ果ててしまうわ。それにあなたは私の召使いじゃないもの。私がこんな風になってしまったんだからあなたは別れるべきだわ。あなたにはもっと相応しい人がいるはずよ」
男は笑って、何を言い出すんだという顔をして言った。
「何も変わっちゃいないよ。俺がお前を抱きしめやすくなっただけだろ」
するりと彼女の腰に腕をまわして痛いくらいに抱きしめてやった。
ヴィーナス 俺のヴィーナス
生きて後八十年ぐらいなら
嘘でも何でも お前を愛し続けるぜ
綺麗事だろうがなんだろうが
四六時中抱きしめ続けてやるぜ
男はそんな詩(うた)を歌った。決して上手いとはいえなかったし即興で適当に作った詩のようだったが男はきつく抱きしめながらそう歌った。男には見えなかったが彼女は涙をこぼ零した。数日前とは違う涙を。
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