冬のひかり/前田ふむふむ
朝は最初のひとりが前足を躓くと、慌ただしく、将棋倒しになって過ぎてゆく。落下してゆく。黒子だった冬が前面に出て罵声を上げて、季節の華やかな色を、乱暴に剥がしている。
冬の膨張は、僕の忘却の山々が隠している、封印した季節の傷の痛みを飲み込んだ、永遠に水平線の無い海の記憶を呼び覚ますだろう。――
無慈悲な冬は両手で季節の雌羊のすべての毛を毟り取り、処刑場の広場に吊るして仕舞えば、荒々しいどよめきを風に乗せて、白紙を曳航した知らない春を、恫喝して運んでくる。
引きずり出して連れてくる。
春を ―――目覚めさせるだろう。
冬の胞子を振り撒いた、凍りつく風を遮断している窓硝子を、淡
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