夜/木立 悟
 



空のふたつの渦が近づき
あらゆる姿を借りてまたたく
濡れる珠と草の闇
腕の無い鬼の舞
風は幾度もかりそめを撲つ
生きもののものではない傷のように
雨水の血に照らされ
鴉の影は一から散らばる


貝を燃す火がまだらに昇り
やがて命の上に落ちてくる
荒れ野を囲む荒れ野はひとつの巣
崖に映る濃い蔦の影
川は冷気の内に浮く



まだやわらかな人工の台地を狼がゆく
空の渦のひとつがその端を地に降ろす
山は削がれたかたちのまま栄えわたる
給水塔のかけらを覆う原に花は無い
見えないものたちが草のなかで姿を得て立ち上がる
人のかたちの熱気と冷気
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