水無川/岡部淳太郎
 
いて
そこもよく歩いたものだった
川沿いの小学校の校庭から軟式野球のボールが転がってきて
それを拾ってやったこともあった
たとえば東京の水辺には様々な物語があって
玉川上水に太宰治が入水したとか
そんな夢のような物語もあるのだが
この水のない川に入水する者などいないだろう
無理に飛びこんでも頭を割るのが関の山だ
そういえば一度平成橋の下の河原で
外国人がらみの殺人事件があったが
この小さな市の警察も
それぐらいしか実績と思い出がないのではないだろうか
僕は水無川の河原の遊歩道を歩きながら
何も思わない
ただ白黒まだらの水鳥がやってきて
川から突き出た石にとまるのが見
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