水無川/岡部淳太郎
 
が見えるだけだ
水がないだけではなく
物語も詩情もない
ひどい話じゃないか

僕の胸の中の川はこの川と同じく
汚れていて水量が少なくて
何の物語も詩情も
持ち合わせていない
いまは冬だ
夏になって僕の心が
ひどい臭いを発しないように
いまのうちから心の河原に
護岸工事を施すことにするか
まだ臭わない
まだ臭うはずはない のだが
いまよりももっと多くの物語が
圧倒的な水量で流れこんできたら
それらの物語は
ひとつずつ実にいやな臭いを
発するのではあるまいか



(二〇〇六年一月)
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