スティーヴ・ゴッドの短くも幸福な人生〜神業とかみさんの日々〜/クリ
 
の楽器を持っていかなくていいからさ。
「信じられるかい? ピアニストは手ぶらでどこにでもいけるんだぜ! 俺はピアニストになりたかった」
 そして彼は遠い目をして呟いた。「いつか、かみさんに、とっておきの曲を作ってあげる。それが俺のたったひとつの望みさ」

 いつのことからか、彼の「重たい」ドラミングが、「もたつき」に変わっていった。関係者は陰でこそこそと、「歳か…」と噂した。また、薬のやり過ぎとも言われた。
しかし、このころから彼が、「かみさん」の話をしなくなったことに気づいた者は、数少ない。
 それは日本のスーパーアイドルデュオの新曲『カメレオン・ネービー』へのゴッドの参加が、彼のど
[次のページ]
戻る   Point(12)