この世の老人/大小島
 
世界であり、立っていた世界なんだよ。
僕はなにも答えない。
私は、この本から、昨日、私の死んだ妻が立ち上っているのを見た。死んだ妻が、私と出会って間もない頃の姿だ。過去の姿だ。しかしそれは、幽鬼でもなく、思い出でもなかった。まったく自然に、私は、もう一つの私の人生を歩んでいたのだ。
妻は私に言った。この公園は、いつ来ても風が強くて、寒いから嫌いなんだ、と。
「でも、ここを通るのが、僕は一番好きなんだ」
うん、知ってる。でも普通、男の人は気をつかって、違う道にしてくれるとかするでしょ。
「それも考えたけど、でも、やっぱり今日はこの公園のこの道を通りたかったんだ」
どうして?
私は、言
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