ネリリしたりハララしたり/佐々宝砂
それでまあだいたいは満足なのだが、あまりにも相手が無口で会話してくれない日々が続くと、ときどき、どうしようもなく鬱々になって、ネリリしたい、ハララしたいと思う。
火星の人類学者は、おおむね、その片思いの相手のことを、あるひとつの情報の集積と見なしている。火星の人類学者はその情報そのものと交接したいのだが、うまくいかない。うまくいかないのも当たり前で、相手は「あるひとつの情報の集積」である前にひとりの人間なのだった。火星の人類学者はそれを知っているのだが認めたくなくて、しょっちゅう相手が人間であることを忘れてしまう。
相手にはいい迷惑だ。そう思うので、火星の人類学者は好きな相手には話しか
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