詩人の墓前に祈る 〜北鎌倉・東慶寺にて〜 /服部 剛
 
のか
 
  流れてゆく無数の黒い小さな蝙蝠傘(こうもりがさ)
  それを押し流すのは
  目に見えぬ無言の意志か
  それとも風か

  一滴の雨水が髪の間から流れ落ち
  僕の頬を濡らす
  ああ
  夢を見ているのでもなければ
  五階の窓にもたれているのでもない
  黒い大きな蝙蝠傘をさし
  雨に濡れて
  僕は昏(たそが)れ近い歩道を歩いている
  雑踏する群衆

  (「白い巨大な」より抜粋)

 五十年前の薄く赤茶けた項に載せられた一編の詩の中で、雑踏の
中を独り歩く詩人の呟きは時を越えて、二〇〇五年
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