詩人の墓前に祈る 〜北鎌倉・東慶寺にて〜 /服部 剛
 
僕もまた、再び合掌を重
ねた。
 T氏は「いつも東京にいると、こういう緑に囲まれた環境ではな
いので落ち着きます。鎌倉はいいところですねぇ・・・」と言った。

 東慶寺の敷地内にある風情のある喫茶店「吉野」で僕の詩集につ
いて話し合った後は、一九五〇年代の「現代詩手帖」や「詩学」を
鞄から取り出して見せるとT氏は薄く赤茶けた項を開き、目次を見
ながら「錚々(そうそう)たる詩人の名前だなぁ・・・」と静かに五十年前の詩
誌を凝視していた。「この戦後の時代に比べると・・・今の時代の
詩人は背骨のあるテーマを持つことが難しいと感じます。」と僕は
現代の詩の世界について感じて
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