ホットドリンクを買いにゆく。/千月 話子
 

静電気が怖い、怖い、私の手の平の保湿から
握られた硬貨がするり と逃走しては
自販機の隙間へ乾燥を求めて サヨナラします。


コイン投入口は私の指先から消え去った
お金の代わりに水分を 引き入れるので
機械の中で形良く並ぶ 暖かいドリンクの
一服の清涼剤になるのだと
冬の思考が ちりちりと腕を伝って
俯く頬を不器用に 慰めるのです。


 長い影 長い影の人差し指で
 長い影と長い影のボタンを押して
 落ちてくる 落ちてくるはずだった
 ジャスミンティーの湯気 
 かげろうと花の香り


失くしたお金の行方など気にしながら
私の後ろの「わたくし」が 
[次のページ]
戻る   Point(9)