ホットドリンクを買いにゆく。/千月 話子
静電気が怖い、怖い、私の手の平の保湿から
握られた硬貨がするり と逃走しては
自販機の隙間へ乾燥を求めて サヨナラします。
コイン投入口は私の指先から消え去った
お金の代わりに水分を 引き入れるので
機械の中で形良く並ぶ 暖かいドリンクの
一服の清涼剤になるのだと
冬の思考が ちりちりと腕を伝って
俯く頬を不器用に 慰めるのです。
長い影 長い影の人差し指で
長い影と長い影のボタンを押して
落ちてくる 落ちてくるはずだった
ジャスミンティーの湯気
かげろうと花の香り
失くしたお金の行方など気にしながら
私の後ろの「わたくし」が
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