ボージョレ・ヌーボー/恋月 ぴの
 
抜くとボージョレ・ヌーボーの生きた香りが漂い 静かなこの部屋に 君の謎めいた甘い微笑み 掻き揚げた髪の齎す陶酔と幻想へ誘う唇から覗く舌先は 不思議な神の血にきっと震えるだろうか 僕のグラスにも注ぐ グラスの中で揺れる赤い液体 口に含めば拡がる 太陽と熱風の記憶 それは 向い側の席でグラスを捧げ 大げさな身振り手振りで今日の出来事を語る君の記憶 甘く切なく そして満たされていたひとときの夢


  星屑になった君の愛に満ちた涙を
  僕は夜空から掬い上げる事を躊躇った
  君の将来を案ずる心と
  今の幸せにしがみ付こうとする心との
  葛藤に切り刻まれた僕の魂は
  愛する君と別れ
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