ボージョレ・ヌーボー/恋月 ぴの
抜くとボージョレ・ヌーボーの生きた香りが漂い 静かなこの部屋に 君の謎めいた甘い微笑み 掻き揚げた髪の齎す陶酔と幻想へ誘う唇から覗く舌先は 不思議な神の血にきっと震えるだろうか 僕のグラスにも注ぐ グラスの中で揺れる赤い液体 口に含めば拡がる 太陽と熱風の記憶 それは 向い側の席でグラスを捧げ 大げさな身振り手振りで今日の出来事を語る君の記憶 甘く切なく そして満たされていたひとときの夢
星屑になった君の愛に満ちた涙を
僕は夜空から掬い上げる事を躊躇った
君の将来を案ずる心と
今の幸せにしがみ付こうとする心との
葛藤に切り刻まれた僕の魂は
愛する君と別れ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(10)