ボージョレ・ヌーボー/恋月 ぴの
別れる事を選び
ひとり絶望の道を歩む
そして 君の面影を胸に抱き
グラスに注ぐ赤い液体
ディオニュソス神の悪戯なのか 酩酊した君への想いを引き摺るようにして ブルーチーズを齧りながら飲む 君のグラスの中で静かに時の過ぎ行く様を眺めている 不思議な神の血 ワインはグラス一杯に注いではいけないと何時も君に窘められていたから 慎ましいほどにグラスへ注いだ この部屋はエアコンディショナーから吹き出される 乾燥した暖かさに満たされていて 君の居ない虚しさを次第次第に想い出の片隅へ押しやろうとする 日付の変わる前にはボトルの総てを飲み干そう 明日になれば陽はまたボージョレ地区の葡萄畑に降り注ぎ 収穫の終わった喜びに満たされた村々に木霊する 牛追いの声が聞こえる
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