アド・バルーンより愛を込めて/ＥｎｏＧｕ
残念そうにポルトガル語の歌詞を歌いきり、ピアノのまえに歩み出て、かるく会釈する。
長いドレスのすそからすこしだけつま先がのぞいて、なにかが薄い照明の奥で、きらきらっ、と光る。
ラズベリーのペディキュア。
ちょっと幼い感じで彼女にとてもよく似合っていると私は思う。
罰月伐日東京都中野区
某中野坂上交差点の午前５：３０
サラリーマン風の黒ぶちメガネの中年男。
交差点わきの地下鉄の入り口に、ぽつん、とひとり。こうもり傘をわきに抱えてデジタル腕時計と経済新聞をせわしなく交互に見やりつつ、私の知らない銀色のタバコを吸っている。
（年老いたリキマルの）鼻息の
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)