尾崎喜八「山の絵本」を読む/渡邉建志
 

そして、「静かに私たちを包んでしまってくれ!」です。




「山への断片」より

喜八さん、登山家たちと登山映画を観ている。すると、右のほうから声がする。

 「なんだ、彼奴あ素人だぜ。地図の縁が切ってねえや!」
 私はその声の主を見た。若い学生だった。ああ、私。私もまた多くの「くろうと」のように自分の地図の縁を切っていた。特に切断しなければならない必要をも感じないのに。しかしこの学生の軽蔑の一語を聞いて以来、私は喜んで元来の素人に立ちかえり、断じて地図の四辺を切ることをやめた。 p.225

なんつーか、頑固な人である。天邪鬼とも言う。思い出したのが、野球
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(3)